この度、当科の窪田晴香先生が筆頭著者として執筆した症例報告が、国際的な医学雑誌「Urology Case Reports」に掲載されましたので、ご報告いたします。
本報告は、最新のホルモン療法中に生じる前立腺がんの予期せぬ悪性化のメカニズムを解明する上で、重要な臨床的知見を提供するものです。
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論文の概要
タイトル: Clonal selection of pre-existing neuroendocrine component in prostate cancer during androgen receptor signaling inhibitor therapy: A case report
(アンドロゲン受容体シグナル阻害薬による治療中に、既存の神経内分泌成分がクローン選択された前立腺癌の一例)
掲載誌: Urology Case Reports
研究の背景と臨床的意義
進行した前立腺がんの治療では、男性ホルモンの働きを強力に抑えるアンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)が中心的な役割を果たします。治療効果は通常、PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカーの値で評価されます。
今回、窪田先生が報告したのは、ARSI治療によってPSA値が検出できないほど良好に低下したにもかかわらず、後に肺や肝臓への転移が出現し、急速に病状が進行した79歳の患者様の症例です。
なぜこのような「PSAと画像所見の乖離」が起きたのでしょうか。詳しく調査した結果、以下のことが明らかになりました。
がん細胞の「顔つき」の変化: 転移巣の組織は、通常のホルモン療法が効きにくい「神経内分泌がん」という非常に悪性度の高いタイプに変化していました。
悪性細胞の「潜伏」と「選択」: 診断当初の前立腺組織を最新の技術で再評価したところ、ごく僅かながら、この神経内分泌がんの性質を持つ細胞が既に存在していたことが判明しました。
つまり、ARSI治療はPSAを産生する大多数の前立腺がん細胞には著効したものの、その裏で、薬剤が効かない一握りの神経内分泌がん細胞が生き残り、選択的に増殖(クローン選択)してしまったのです。これは、強力な治療の裏で起こりうる、がんの巧妙な生存戦略を浮き彫りにした貴重な報告です。
本症例は、ARSI治療中の患者様において、PSA値だけを頼りにするのではなく、定期的な画像検査や、NSEなどの他の腫瘍マーカーを併用して評価することの重要性を改めて示しています。
最後に
獨協医科大学泌尿器科では、日々の臨床から得られる疑問を大切にし、それを研究に繋げることで、より良いがん治療の確立を目指してまいります。
窪田先生、論文掲載誠におめでとうございます。この報告が、より安全で効果的な前立腺がん治療の発展に貢献することを期待しております。今後のさらなるご活躍を医局員一同、心より応援しております。