SHD:WATCHMAN (経皮的左心耳閉鎖術)

心房細動患者様の脳梗塞予防のための
新しいカテーテル治療

〜WATCHMANを用いた経皮的左心耳閉鎖術〜


心臓・血管内科/循環器内科
学内助教
実務医

廣瀬 優

心臓・血管内科/循環器内科
学内助教
実務医

廣瀬 優

心房細動と脳卒中の関係

心房細動は心房と呼ばれる心臓の上のお部屋が不規則に動く不整脈で、不整脈の中で最も多いとされています。心房細動で問題になるのは、小刻みに心房が震えることで心臓内に血の塊 (血栓) が形成され、その血栓が剥がれ落ち脳や全身の血管に詰まることです。脳卒中を発症すると、重篤な麻痺や深刻な後遺症を残し、場合によっては死に至ることもあります。脳梗塞を防ぐためには、血液をサラサラにする治療 (抗凝固療法)が有効ですが、その一方で脳や消化管といった多くの臓器で出血を起こす危険もあります。


カテーテルによる左心耳閉鎖術

心臓にできる血栓の約90%は左心耳と呼ばれる部分に形成されます。経皮的左心耳閉鎖術は、専用のカテーテル閉鎖デバイス (WATCHMAN FLX®︎ ボストンサイエンティフィック)を用いて、低侵襲に血栓の温床となる左心耳を閉鎖し脳梗塞を予防する新たな治療法です。この手術を行うことで、出血に関係するお薬を中止または減量することが可能になると期待されています。 栃木県ではこれまでこの手技を行うことができませんでしたが、県内では当院のみ実施施設として認定され、2023年5月から治療を開始しております。 出血にお困りの心房細動間患者様の悩みを解決すべく尽力していきたいと考えております。

写真提供 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社

経皮的左心耳閉鎖術の対象患者様と治療の流れ

医療従事者の方へ

対象患者様は脳梗塞の発症リスクが高く長期的に抗凝固療法が推奨される方で以下の要因の1つまたは複数に該当した方です。

  • • HAS-BLED スコア※が3以上の方
  • • 転倒にともなう外傷に対して治療を必要とした既往が複数回ある方
  • • びまん性脳アミロイド血管症の既往のある方
  • • 抗血小板薬の2剤以上の併用が長期(1年以上)にわたって必要な方
  • • 出血学術研究協議会(BARC)のタイプ3に該当する大出血の既往を有する方
    ※重大な出血事象の発現リスクを評価する方法

なお、以下の1つもしくは複数に該当する方は適用外になります。

  • • 心臓内(特に心房内)血栓が認められる方
  • • 心房中隔欠損又は卵円孔開存に対する修復治療(外科手術、デバイス留置等)
    あるいは心房中隔の縫合閉鎖の既往がある方
  • • 左心耳の解剖学的構造が閉鎖デバイスに適応しない方
  • • 左心耳閉鎖術が禁忌である方
    (経食道心エコープローブや施術に必要なカテーテルの挿入が困難等)
  • • 抗凝固療法、アスピリン又はチエノピリジン系薬剤の使用が禁忌である方

当院は適応と考えられる患者様を循環器内科医、心臓外科医などで構成されるハートチームで共有し、治療方針を決定しております。

患者様へ

適応となるのは、長期的に血液サラサラの薬剤を内服するのが困難な方です。例えば、

  • • 過去に出血のトラブルがあった。
  • • 出血のリスクが非常に高い。(透析中、貧血や血液疾患をお持ち、ご高齢)
  • • 血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を内服していたのにも関わらず脳梗塞を発症した。
  • • 複数血液をサラサラにする薬剤を内服している。

などです。

治療の流れ

写真提供 ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社

手術は全身麻酔下に行います。右大腿静脈から柔らかい管 (カテーテル)を挿入し、カテーテルを右心房から左心耳まで持ち込みます。経食道心エコーで観察しながら左心耳の適正な位置に専用のデバイス (WATCHMAN FLX®︎)を留置します。治療時間は1時間から1時間半程度で、翌日から歩行が可能です。術後は数日間経過観察をして退院となり、傷は1cm程で非常に小さく済みます。


術後の抗血栓療法について術後45日までは抗凝固薬に加えアスピリン製剤を内服し、経食道心エコーで評価し左心耳に向かう血流を評価し問題なければ抗凝固療法は中止します。デバイスは90日で内皮細胞に被覆されていき、半年後に再度経食道心エコーで評価し異常がなければ抗血小板薬を単剤で投与します。

特徴

  • 1. 胸を切らずに小さな傷で治療を行う事ができ非常に低侵襲です。体の負担が少なく、体力が心配な方、透析患者様にも適応があれば実施が可能です。
  • 2. 血栓の温床となる左心耳を塞ぐことで脳梗塞のリスクを減らしながら、抗血栓薬の減量、変更により出血のリスクも軽減する事ができます。

メッセージ

当院は心臓の血管(冠動脈)や弁膜症などの多くの心臓疾患に対するカテーテル治療を行っております。また、この治療の一環である経皮的左心耳閉鎖術は、栃木県内では当院が唯一実施可能な医療機関でございます。心房細動に対する内服薬の継続や脳梗塞についてお悩みの患者様がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽に当院にお問い合わせいただければ幸いです。患者様一人一人に寄り添い、最善の治療法を検討させていただきます。

ご紹介の先生方へ

出血リスクと梗塞リスクは重複することが多く、日常診療でお悩みになる患者様がいらっしゃるかと存じます。手術の適応が不明確で、紹介すべきかどうかお悩みになることが多いと思われますが、適応については当院で診察および精密検査を行い、判断させていただきますので、どうぞご遠慮なくご紹介いただき、ご相談ください。心房細動の治療方針については不整脈専門医と協議させて頂きます。当院ハートセンターで十分に検討を行い、患者様のニーズに合った最良の治療法を提案させていただきます。

外科専門外来の日程:心臓・血管内科/循環器内科

午前 廣瀬
午後 廣瀬

時間はお電話でご確認ください。
問い合わせ 0282-86-1111