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EVIDENCE-BASED DRUG THERAPY

主な対象疾患

統合失調症

統合失調症は、考えや気持ちがまとまらなくなる状態が続く病気です。統合失調症はとてもありふれた病気で、100人に1人程度の割合でかかる病気とされています。主な症状は幻覚や妄想です。幻覚とは、実際には存在しないものを感じてしまうことです。幻視・幻聴・幻臭・幻触など、様々ありますが、統合失調症で最も多いのは、実際にはその場にいない人の声が聞こえてしまう幻聴です。妄想とは、明らかに間違った内容を信じてしまい、周りの人たちが訂正しようとしても自分では受け入れられない考えのことです。周りから監視されている、狙われているなどを感じることも妄想に含まれます。自分には確かに聞こえたり見えたりして感じているのに、家族や友達などの周りの人たちが皆「そんなことはない」と否定する場合は、幻覚や妄想の可能性があります。また、幻覚や妄想以外にも、自分の考えがまとまらなくなったり、集中力が落ちたと感じたり、気分が落ち込んだり眠れなくことがあります。様々な症状が出ることで、周囲の人とうまくいかず、対人関係に支障を来たしてひきこもることもあります。統合失調症の原因についてははっきりとは分かっていませんが、進学・就職・独立・結婚などの人生の大きな転機などで、大きなストレスを感じると発症することが多いとされています。統合失調症の治療は、症状を良くするために主に薬物療法を行います。治療によって激しい症状がよくなると、症状が安定し、なかには症状が全く出なくなる人もいます。しかし症状がなくなったからといって自分だけの判断で薬をやめてしまうと、しばらくして再発することが多いため、生活習慣病のように病気と長く付き合っていくことが必要となります。 当科の特徴として、統合失調症の診断を受けた方にはガイドラインに基づいた合理的な薬物療法を行います。外来治療と入院治療のどちらを選択することもできます。患者さんやご家族の中には、「精神科に入院すると、病院に閉じ込められて、一生外に出られない」という不安を感じる人もいると思いますが、開放的な病棟での入院という事で安心される方も多いです。また薬の効きにくい人に対してはクロザピンを使用します。この薬は副作用として血球の低下などがあり、専門内科の協力が不可欠ですが、当院では内科の先生と協力して治療をすることで、安全に治療を行うことが出来ます。 また、薬が効きにくい人、薬の副作用が出やすい人や緊張型の人(体が固まり、上手く意思疎通が図れなくなってしまった人)に対しては、電気けいれん療法を行います。麻酔科の先生に協力してもらうことで、電気けいれん療法に伴う副作用を減らし、かつ、手術室で行うことで安全な体制を整えています。また、当院は電気けいれん療法の認定施設第一号を受けており、大学病院の中でもトップクラスの実施件数を行っています。 自分は統合失調症かも?治療はどうしよう?などの不安がある方は当科へご相談下さい。


気分障害

気分障害とは、気分が普通のレベルを超えて落ち込んだり高揚したりすることが一定の期間続くものをいい、大きく分けるとうつ病、双極性障害(躁うつ病)があります。うつ病とは、抑うつ状態を主体として様々な精神症状や身体症状を認める病気です。症状には、気分の落ち込み、やる気のなさ、何をしても楽しめない、眠れないまたは過剰に眠ってしまう、食欲がないまたは過食してしまう、疲れやすい、集中力がない、ひどく焦ってしまう、自己評価が異常に低くなる、死にまつわる考えが出てくる等があります。双極性障害は、躁状態と抑うつ状態の症状を繰り返すのが特徴です。抑うつ状態は先述した通りで、躁状態には、高揚したまたは苛立たしい気分、自尊心が高くなる、普段より口数が増えておしゃべりになる、考えがまとまらず発言がばらばらになる、注意力が散漫になる、お金の使い方や対人関係が派手になる、睡眠欲求が少なくなる等の症状があります。いずれの病気も、患者様やそのご家族、身近にいる方からの問診をもとに診断していきますが、ある種の身体疾患や処方薬の影響で気分症状が出現することもあるため、血液検査や画像検査等を併用して鑑別診断を行うこともあります。 うつ病の治療として、まずは十分な休養をとっていただき、抗うつ薬を中心とした合理的でガイドラインに沿った薬物療法と、辛い気持ちを受け止める精神療法や患者様の状態に合わせて、ストレスとなっている環境の調整を行います。さらには考え方や行動を変えて行く認知行動療法を行っています。双極性障害の治療としては、気分安定薬を中心としたガイドラインに沿った薬物療法や精神療法を行いながら、症状の改善を目指します。心理教育として、生活のリズムを整えたり対人関係の問題に取り組む練習をしたりして、再発を予防していきます。 総合病院である当院では、薬物療法により効果がみられない場合や、緊急性の高い症状(自殺の危険性が高い、低栄養状態、不安焦燥感が強い、意思の疎通が図れない状態など)がある場合には、修正型電気けいれん療法(m-ECT)を施行して、早期に症状の改善を図ることがあります。m-ECTでは全身麻酔をかけて患者様が眠っている間に、頭部を電気で刺激することによって脳のけいれんを誘発し、脳の機能を回復させようとする治療法です。 また当科では、2021年4月から新たに保険適応内の治療として認められた反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS) も行っており、既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても期待される治療効果が認められない中等症以上の成人(18 歳以上)のうつ病の患者様に施行することができます。rTMSは、パルス磁場による誘導電流で特定部位の神経細胞を繰り返し刺激して、うつ病による抑うつ症状を改善させる治療法です。 以上のような方法を用いながら、患者様やご家族の方が安心して日常生活を過ごせる様になるための方法を一緒に考えていきましょう。詳しくお知りになりたい方は、お気軽に主治医までご相談ください。


認知症

認知症とは、一旦発達した知能がさまざまな原因で持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす病態を指します。物忘れ以外に日常生活や社会生活に支障が出る例として、炊事ができなくなる、買い物に行っても何を買っていいか分からなくなる、お金の管理ができなくなる、車の運転に支障をきたす、街中で迷子になるなど、今まで問題なく生活していた方々が、歳を重ねることで徐々に生活に支障が出てしまう病気です。これらを遂行機能障害と言い、いわゆる“ボケ”との大きな違いとなります。 認知症は後期高齢者のみの病気とは限りません。軽度認知障害(MCI)という同年齢と比較して認知機能低下を認め物忘れの自覚があり、知的に健常とは言えない認知症前状態を表す概念があります。我が国では65歳以上の高齢者における認知症の有病率は15%、MCIの有病率は13%と推計され、比較的若い前期高齢者の方々の生活にも問題が起こる事があり、MCIから認知症へ移行する方々は年間8.3%と報告されています。いまだに認知症の根本的治療薬は開発されていませんが、早期発見・早期医療介入が重要であり、これらの問題を抱えている方々に適切な抗認知症薬などの薬物療法を行うことで、病気の進行を遅らせることができる場合があります。また、治療可能な認知症も存在し、専門医師の診察と治療で認知機能が回復することもあります。  認知症は記憶の障害だけでなく、進行すると介護への拒絶、興奮、暴力、夜間の徘徊、抑うつ気分、不眠、幻覚、妄想などの行動・心理症状が出現することが多いです。これらの症状が本人の安全な生活を脅かすだけでなく家族などの介護者への負担になり、本人のみならず家族も不安に苛まれ、誰にも相談できずに疲労困憊となる事例も少なくありません。 認知症かもと悩んでいる方または介護に不安や限界を感じている方は、我々に相談をして下さい。当科では認知症疾患センターを設置し、多くの症例を受け入れております。診断や薬物療法などの治療以外にも、その方々特有の問題に対して真摯に向き合い、一緒に悩みを解決できるように支えていきます。また、地域福祉と連携し社会的な支援を提供することで社会的孤立から抜け出せるようにサポートも致します。我が国の超高齢社会において認知症に悩む方々が増えているのは必然であり、既に認知症と共に生きる時代となっています。認知症の問題を抱える全ての皆様がより幸せで希望を持って暮らせるように、私達にお手伝いをさせて下さい。


身体疾患に伴うメンタルヘルス

 こころと身体は密接に関係しています。ストレスによって胃の不快感や頭痛に悩まされるケースは少なくありません。糖尿病や甲状腺疾患などの身体疾患によって不眠や抑うつ気分などのメンタルの症状が出現することもあれば、反対に、摂食障害による低栄養やアルコール依存症の肝障害など精神疾患が身体に影響を与えることもあります。精神的にも身体的にも苦痛があると、思考や価値観に悪影響が出てしまうことがあります。場合によっては、学校や職場で社会的な問題を引き起こしてしまうこともあるかもしれません。 当科では身体症状に伴うメンタルヘルスに問題が生じた方の治療を行っております。その為、症状に応じて血液検査や心電図、頭部CTやMRIを行うことがあります。これらの所見を統合して、鑑別診断を行います。他科と連携し総合的に治療していくこともあります。当科の治療では医療者も一緒に心理・社会的背景を見つめながら、訴えと思いを受容し、精神・薬物療法を行いながらサポートしていきます。


神経症

 神経症はもともと「神経の病気」として脳卒中やてんかん、気分障害や統合失調症など神経疾患と精神疾患をまとめた用語でした。しかし医学の発展とともに各疾患の研究が進み、現在では神経症は不安症や強迫症、身体症状症、解離症などの「心因(精神的原因)によって精神的あるいは身体的な症状が引き起こされた状態」を指す言葉になっています。 1) 不安症(社交不安症、パニック症、広場恐怖症、全般性不安症など) 不安症では、普通であれば危険ではない場所や状況に対して不安を感じ、日常的にそれらの状況や対象を避けて生活をしようとします。例えば社交不安症では、他人の注目が集まるような状況や場所で過剰に緊張してしまい、動悸や冷や汗を認め、頭が真っ白になりうまく振舞うことができず、そのような自分に対しての周囲の評価が気になり、発表などの場に限らず、日常的な他人との交流においてもなるべく避けるようになることがあります。 2) 強迫症(強迫症、醜形恐怖症、ためこみ症など) 自分の意志とは関係がなく、ある考えや行為が頭から離れず、結果として日常生活が障害されてしまう疾患です。たとえば、自分で戸締りをしておきながら、「それを忘れたんじゃないか?」という考えが頭から離れず、どうしても家に帰って確かめないと気が済まない。手を十分に洗ったが、「汚れが落ちてないんじゃないか?」と何度も何度も必要以上に手を洗ってしまう。などがあります。 3)心的外傷およびストレス因関連障害群(心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害など) 仕事や生活環境の変化に伴うストレスにより気分の落ち込みやイライラ、不眠といった症状が出現する疾患です。また、事件や事故などの衝撃的なトラウマ体験後に、フラッシュバックや悪夢が出現するケースもあります。 4)解離症 強いストレスから無意識の内に自身を守ろうとする防衛反応により様々な症状が生じる疾患です。具体的な症状としては、現実感の消失や、ストレス因に関する記憶の欠如などが挙げられます。 5)身体症状症 自覚症状に見合う身体的異常や検査結果がないにも関わらず、頭痛やしびれなどの様々な症状が長期間にわたり続く疾患です。 獨協医科大学病院精神神経科では、血液検査やCT検査など必要に応じた検査を行い、身体に異常がないかどうかを調べた上で、精神科的治療を行います。神経症の背景には環境や、個人の葛藤などがある場合が多く、個々に応じて環境調整およびカウンセリング、あるいは認知行動療法などを用いた考え方の修正を試みることに加えて、必要に応じて薬物療法を行っています。


摂食障害

摂食障害として、特に悩まれる方が多いのは「拒食症」もしくは「過食症」です。拒食症は、医学的には神経性やせ症に分類されるものがほとんどであり、極端に摂取カロリーを制限することで、極度の低体重をきたす疾患です。人によっては食べた後に吐き戻すなどして、なんとか体重を増やさない努力をします。原因は様々ですが、共通しているのが、皆さん体重が少しでも増えることに対しとても強い恐怖心を抱いているということで、極度の低体重は健康に重大な悪影響を及ぼします。例えるなら、「ガソリンの入っていない自動車を無理やり動かしている」ようなものですので、身体に負担がかかり、不整脈を始め、免疫力の低下、肝機能異常、骨密度の低下、ホルモンバランスの異常等が見られ、時には死にいたる恐ろしい疾患です。対する過食症は、神経性過食症と呼ばれ、食べることが抑制できないという感覚に囚われ、明らかに多い量の食物を摂取してしまう疾患です。食べた後に否定的な気持ちや不快な気持ちがやってきて苦しくなり、こちらも吐き戻すなどの代償行為を行う方が多くいます。 当科では、摂食障害を外来・入院の両方で治療を行っています。先述の通り、摂食障害は身体的な問題も大きいため、総合病院である当院では、他科との連携のもと身体的な治療を行いながら、精神的な治療を行うことが可能です。基本的には外来にてカウンセリングを行い、摂食障害の背景にある心理的な葛藤を取り除くことが治療の中心となります。神経性やせ症の場合、目安としてBMIが15以下の最重度と判断した場合、入院環境下にて身体的な治療を最優先とした治療への切り替えを検討する場合があります。 摂食障害は、確固とした治療法が確立されておらず、複雑で難しい疾患の一つです。一人で摂食障害に苦しんだり、もしくは摂食障害に苦しむ家族に対してどう接していいか悩んでいる方も多いでしょう。当科にご相談頂くことで、少しでも精神的な苦しみを和らげ、適切な改善策を選択できるように手助けをさせて頂きたいと思います。


薬物による精神障害

薬物による精神障害と聞くと、一般には覚醒剤、大麻等の違法薬物やアルコール等への依存症、あるいはそれらの離脱症をイメージされる方が多いかもしれません。ですが、薬物には依存の問題の他、急性中毒や薬物そのものによる精神・行動の障害というものもみられることがあります。医薬品であるステロイド、甲状腺ホルモン、経口避妊薬、インターフェロン、抗がん薬等にも精神への影響を及ぼす可能性もあり、身体への治療の最中で精神的に不調となる可能性も決して少なくありません。  当科におきましては、これらの問題に対し、外来診療を行い、症状の重さに応じて入院や専門機関への紹介等、患者様の抱える問題を解決するべくお手伝い致します。  依存症などの問題については、患者様本人のみでなく、周囲のご家族を巻き込んだケースもあり、急性期の治療のみでなく、断薬を継続できるよう心理・社会的リハビリテーションについてご提案することもあります。  日常生活において、これらの問題で悩まれていらっしゃる様でしたら、是非当科外来へご相談いただければ、患者様とそのご家族が直面しているトラブルを軽減できるよう、サポート致します。