末梢血管とは一般的に足や腕の血管をいいます。
末梢血管の病気を症状から大まかに分けると、動脈の病気では、
(1)ひざ下または腕が急に痛くなり、どんどん白くなって冷たくなる急性動脈閉塞症。
(2)ちょっとした散歩でも50~100mくらい歩くうちにふくらはぎが「ぎゅーっ」と締め付けられるように痛くなり、立ち止まるが1分くらい休むとまた歩けるようになる慢性閉塞性動脈硬化症。
静脈の病気では、
(1)立っているとふくらはぎや内股の血管が青く「もこもこ」「うねうね」とこぶになり、夕方にはむくみが強くなってくる下肢静脈瘤。
また、(2)エコノミークラス症候群として知られるようになった深部静脈血栓症。
これらが代表的な血管の病気です。血管の病気をいくつか説明しましょう。
急性動脈閉塞症とは、急激に発症し動脈の血流が途絶える病気です。
原因は二つに分けられます。
はじめに塞栓症です。心臓の中にできた血液の塊が動脈の血液に乗って頭、腕、腸、腎臓、足などの動脈を塞ぎ、血液の流れが突然止まります。
お臍の位置で腹部大動脈の直径は1.5~2cm、足の付け根では直径1cm弱です。
心臓から1cm大の血の塊が流れてくれば、足の付け根で動脈塞栓症が成立することになります。
つぎに血栓症です。すでに閉塞性動脈硬化症、バージャー病などの病的な動脈があり、これにうっ血性心不全、脱水、けがなどをきっかけに動脈の流れがなくなる血栓症です。
診断は次の特徴的な症状から判断できます。
1. 手や足がどんどん痛くなる。
2. しびれる。
3. 青白くなる。
4. 脈が触れない。
5. 手首または足首が動かない。
これらの急に起こる5つの症状が特徴的です。
塞栓症の場合には回り道の血管ができていないので、一度閉塞すると次々に血液が固まっていき、具合はどんどん悪くなっていきます。
痛んでから約6時間までに治療ができればよいですが、これ以降は神経→筋肉→皮膚の順に元に戻らないほどに悪くなっていきます。
24時間を過ぎると20%が切り落とすまでに進みます。
一方、血栓症は慢性閉塞性動脈硬化症に合併することが多く、狭い動脈には回り道ができていることから、比較的ゆっくりと進んでいきます。
例えば「普段は休み休み歩けていたのに、昨日からは急に痛くなって歩けないです。」というように、間欠性は行の急激な悪化として症状に表れます。
1. 薬物療法 血液の固まる力を抑え、血管を拡張させる薬で治療します。
    足の塞栓症に対する薬物療法で戻らないときは手術治療に移行します。
2. カテーテル血栓溶解療法 細いカテーテルを詰まった動脈に入れ、血の塊を溶かす治療です。
    発症早期で知覚麻痺のない方に適応されます。
3. 手術による血栓塞栓摘除術 塞栓症に対して行う効果的な手術です。小さな傷で動脈を出し、
    専用のカテーテルを使用して、動脈内の血の塊を取り除く方法です。
    一方、血栓症では同様にして血の塊を取り除いても動脈自体が狭窄しているので良くならないこともあります。
    この場合には血栓摘除手術に加えてバイパス手術や血管拡張術が行われます。
人口構成の高齢化、食生活・生活様式の欧米化により閉塞性動脈硬化症が増えています。現在では慢性閉塞性動脈疾患の95%以上がASOと言われています。ASOの患者さんのうち50~70%に冠動脈病変が、30~40%に頚動脈の狭窄病変がみられ、虚血性心疾患や脳梗塞の発生頻度が高く、生命予後が悪いことが明らかになっています。ASOの危険因子には、男性、喫煙、高血圧、糖尿病、高脂血症、腎不全があります。
はじめに症状をうかがいます。歩行時に痛みがあるかどうか、100~200mくらいの距離でふくらはぎが痛くなって歩けなくなるが、しばらく休むとまた歩けるようになる(間欠性は行)症状は特徴的です。ひどくなると「じっとしているときも痛む」さらには「足の指が黒く、潰瘍になった」となります。 診察では腕、足の脈が触れるかどうかを確認し、症状のある足の皮膚温を診ます。
血圧脈波:腕の血圧に対する足首の血圧の比を求める方法があります。足の血圧比が低ければ閉塞病変があると考えられ、追加の検査を行うことになります。
超音波ドップラー検査、CT検査、MR検査などを行うことによって、動脈の石灰化、狭窄・閉塞病変の部位や程度を診断できます。
血管造影検査:以上の検査から治療が必要となった場合に行います。
はじめに、リスクファクターの改善が第一歩です。
完全禁煙、コレステロ-ル値の管理、糖尿病の治療、血圧コントロールから始まり、血を固まりにくくする抗血小板療法が導入されます。
狭窄や閉塞部位があり、治療を開始しても症状が改善しない方、じっとしても痛い方や潰瘍がある方は血管内治療・手術治療が適応になります。
1. 血管内治療
    レントゲン診断装置のもとにカテーテル操作により血管造影を行いながら、
    狭窄部位や閉塞部位を広げ開通させる治療です。ステント治療も含まれます。
2. 手術治療
    血管内膜を取り除く治療、自家静脈や人工血管を用いたバイパス術、
    ステント治療とバイパス手術を組み合わせる治療。
1や2の治療はすべての病変に可能とはいえません。血管の狭窄や閉塞、そして足の状態によって治療を行います。
しかし、潰瘍の足がすでに細菌感染を起こしている状況、潰瘍の足が棒のように動かない状況では残念ながら切断を必要とすることがあります。
足から心臓に戻る静脈の血液が、立ち仕事などのために逆流して滞ることによって、表面近くの静脈が徐々に太くなり、瘤のように蛇行していく静脈の病気です。悪化すると炎症から血栓をつくり、色素沈着を生じ、さらには赤くなった皮膚がただれて潰瘍になります。女性の方は出産のときに静脈瘤に気づき、最近目立ってきたといって受診される方もいます。女性の方が多いですが、男性でもみられます。理容師、工場ライン作業の方、調理師など立つ時間の長い職業の方に多くみられます。
超音波ドップラー検査、CT検査、MR検査などで静脈瘤の範囲と程度、そして深部静脈の状態を知ることができます。
・弾性ストッキング着用による圧迫療法は、ストッキングを買ったその日から始められる簡単な治療ですが、
  基本になる治療です。日ごろ着用することが大切です。
・硬化療法は、アルコール剤を瘤に注入して血管をつぶす治療です。
・結紮療法は、局所麻酔を使用して小さな皮膚切開で瘤や周りの血管を縛ってとる治療です
・静脈抜去手術(ストリッピング手術)は、足の付け根から膝下の静脈まで逆流するタイプの静脈瘤には必要な手術です。
  2日から3日の入院で可能な治療です。
・ラジオ波治療は現在もっとも盛んに行われている治療です。静脈瘤の原因となる下肢静脈内にカテーテルを挿入し、
  ラジオ波(高周波)にて静脈壁を焼灼することで、静脈を線維性に閉塞させます。
  手術時間は1時間程度、2泊3日での手術を行っています。
治療前 治療後
以上の治療は、静脈瘤のタイプを診断したうえで、単独もしくは組み合わせて治療を行い、治療の達成具合によって何度か治療を行うこともあります。
一方、出産・外傷・手術などをきっかけに静脈瘤が生じたと受診する方の中には、検査の結果で深部静脈が閉塞していることが見つかり、二次的に生じた静脈瘤と診断されることがあります。
この場合は積極的な治療対象にはなりません。
以上のように末梢血管疾患は多岐にわたり、患者様の四肢の状態、病変により手術、保存的治療が選択されます。
当科では患者様と十分相談の上治療方針を決定させていただき、より良い医療を提供できるように尽力させていただきます。