心臓には4つの部屋があり、左右の心房(血液の入る部屋)と左右の心室(血液を送り出す部屋)に分かれます。
また左の心室からは大動脈、右の心室からは肺動脈が出ています。
全身からかえってきた血液はまず右心房に入ります。右心房からは「三尖弁」を通過し、右心室へ入ります。
右心室からは「肺動脈弁」を通過し肺へ流れ、二酸化炭素と酸素を交換して左心房へかえってきます。
左心房から左心室へは「僧帽弁」という最もしっかりとした弁を通過し流れていきます。左心室からは「大動脈弁」を通過し、全身へと流れていきます。 これら4つの弁は逆流を防止する働きを担っており、血液が全身をスムースに流れるためにとても重要な働きをしています。
これらの弁の開閉機能に異常が起こって、通過障害(狭窄症)や逆流(閉鎖不全症)することで血液の流れが悪くなり、心不全となる病態を心臓弁膜症と呼びます。
寿命が非常に長い日本では弁膜症患者さんも増加傾向にありめずらしい病気ではありません。
1つの弁膜だけでなく、同時に2つや3つの弁膜に障害が及ぶことも稀ではなくこれらを連合弁膜症と呼んでいます。
はじめは階段をのぼったり、駆け足をしたときに「あれっ?ちょっとしんどいなあ、運動不足かな?」と、感じる「労作時息切れ」が出現したり、顔や手足のむくみが現れます。
しかし徐々に症状が強くなり、特に「起坐呼吸」と呼ばれる呼吸苦のために横になって寝られない状態となれば、心不全症状としては非常に重症と診断されます。
また、胸痛や首やあごのだるさ、などの狭心症とよく似た症状が出現することもありますし、突然意識を失う「欠神発作」が出現することもあります。
弁膜症を発症すると血液の流れが悪くなり、心臓にも大きな負担がかかります。そのため、「心房細動」といった不整脈を合併することも多く、どきどきする、といった症状が出現することもあります。
胸部レントゲンで心拡大を認め、心電図で心肥大や不整脈を認めます。
多くの場合、診察の時に心雑音を指摘されます。正確な診断および重症度は心エコー検査と、心臓カテーテル検査で行われます。
弁膜症の原因によっては異なりますが、初期は安静や内科的治療(利尿剤などの薬物)が行われます。
弁機能が高度に障害された場合は、内科的治療でも心不全が改善せず心機能も低下してしまうため手術が必要となります。
手術は患者さんの生命予後が改善するばかりでなく、心不全症状が格段に良くなります。そのため、80歳以上の高齢の方であっても手術の恩恵は十分に得られる、といった報告は世界各国からも報告されています。
外科手術は、2つに大別されます。1つは、罹患した弁膜を人工弁に取り代える「弁置換術」です。
「弁置換術」に用いる人工弁には機械弁と生体弁の2種類があります。
もう1つの治療法は弁膜を修復・形成する「弁形成術」です。
患者さんにとっては「弁置換術」よりも「弁形成術」の方が術後の「生活の質」は優れています。
ただ全ての患者さんに「弁形成術」が出来るとは限りません。
「弁置換術」より「弁形成術」のほうが手術手技は複雑になり、外科医の経験がより必要になります。
自分の弁を取り除いて新たに人工弁を植え込む手術です。
人工弁には大きく分けて機械弁と生体弁の2種類があり、さらにさまざまな特徴をもった数多くの人工弁が製造されています。
その一部の弁を下にお示ししますが、私たちは患者さまおよび患者さまのご家族とともに最も患者さまに適した弁を選択いたします。
機械弁と生体弁の最大の特徴は、機械弁は壊れにくい反面、血栓形成のリスクを有するためワーファリンという抗凝固薬をずっと飲まなければいけません。
反対に、生体弁は長期にわたっては劣化する可能性があるものの抗凝固療法は必ずしも必要ではありません。
このようにそれぞれの人工弁の特徴を説明申し上げた後に患者さまに弁を選択していただきます。
ブタの大動脈弁を加工したものとウシの心膜を加工したものがある。
ブタの大動脈弁を大動脈に付着させたまま形成されたもの。
大動脈弁狭窄症に関しては、従来の開心術が困難と考えられるhigh riskの患者様に本邦においては2014年より、カテーテル治療による大動脈弁置換術が保険償還されました。
一般の大動脈弁置換術では手術の危険度が高いと思われる患者様に対して、この弁を用いることで、その手術成績が期待されています。
当院においても平成30年度より導入予定です。
弁形成は弁置換と異なり、自分の弁を温存します。
そのため、抗血栓性に優れ、弁機能も良好なため、心機能も良好に温存され、長期成績も良いと考えられています。
また、人工弁感染の可能性がないため、感染症に対しても有利です。
形成術の適応の少ない弁ではありますが、可能な症例には積極的に行っております。
主な対象疾患は先天性2尖弁や弁輪拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全症です。
Daivd手術(右図)と
2尖弁に対する形成術(下図)
僧帽弁形成術の成績は非常に良好で、僧帽弁逸脱症候群、僧帽弁閉鎖不全症の多くの場合(95%以上)、形成術を行うことができます。
また、感染性心内膜炎による僧帽弁の逆流に対しても積極的に自己弁を温存するように努めています。
弁の変性(または破壊)の形態によって臨機応変に手術様式を選択しますが、主な形成方法は、悪くなっているところを切除し、 周囲の組織を寄せてその部分を埋め合わせたり、人工検索を作って弁を支えたり、パッチを用いて穴を閉鎖したりします。
最後に弁輪に「当て布」(弁輪形成)をして形成します。
ほとんどの場合弁輪に「当て布」をして弁輪を縫い縮めることによって逆流を止めます。
しかし症例によっては、弁輪のみでなく、弁尖や弁下組織に治療を加え、より長期の良好な三尖弁逆流制御を目指した術式を積極的に取り入れております。
以上のように弁膜症に対する手術は多岐にわたり、診断、検査、治療と、専門医による高度な判断と技術を要します。
弁膜症と診断され、当院で治療をご希望の方はいつでも診察を受けることができますので、お気軽にご相談ください。
当科の専門医が患者さまとともに治療方針を決定し、より良い医療を提供できるように尽力させていただきます。
また、弁膜症の手術は非常に小さな皮膚切開でできることもあり(MICS)、患者様の疾患に応じて当院でも施行しております。