トロントは、カナダのオンタリオ州の州都で五大湖の一つオンタリオ湖に面するカナダ最大の都市です。人口は271万人(2016年)で大阪市とほぼ同等で、その都市圏人口は593万人(2016年)と北米ではニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴに次ぐ4番目の規模の大都市です。近代的なビル群が立ち並ぶカナダ経済の中心都市であり、トロント市民はスポーツ(MBA:野球、NBA:バスケ、NHL:アイスホッケーのチームがあります)と祭りをこよなく愛し、これらも大阪に似ている気がしてなりません。
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しかし、日本の都市と全く異なる点もいくつか体感しました。その最たるものが人種の多彩さです。世界各国からの移民を受け入れ(もちろん厳しい審査があります)、中華街、韓国人街、ギリシャ人街、トルコ人街などが点在しています。白人47.7%、アジア系35.1%(南アジア12.6%,中国人11.1%,フィリピン人5.7%,韓国人1.5%、日本人0.5%、他3.7%),アフリカ系8.9%,中南米系2.9%、アラブ系1.3%と単純に人種が多彩なだけでなく、アジア系、アラブ系、ヨーロッパ系と明らかに異なる人種の人々が仲良さげに話し歩いている姿、レストランで食事をしている姿が印象的でした。トロント市民はこれをmulticulturalと呼び、ある種の誇りに思っているようでさえありました。多くの移民があり、食事や祭りなど各地域の文化が尊重しあい、人口が増え続けている街は活気にあふれています。
Canada day(建国記念日)のフェスティバルから
ちょうど建国150周年のアニバーサリーで非常に盛り上がっていました
トロント小児病院
トロント小児病院(The Hospital for Sick Children)はトロントの中心に位置し、市民からはSickKidsの愛称で親しまれています。国内最大の小児病院で国際的な評価も高く、臨床・研究ともに中心的役割を担うトロント大学の関連施設です。その病床数は453床と国立成育医療センター(490床)とほぼ同等ですが、医師の数は700名超と成育医療センターの(351名)の約2倍、コメディカルスタッフにおいては日本と比べて比較できないほど充実しています。医師も国際色豊かで、各診療科のクリニカルフェローの枠には世界各国から数十もの応募があるそうですが、採用されるのはそのうち毎年1-2名と非常に狭き門だそうです。クリニカルフェローをしている日本人の友人の話では、医療のレベルはもちろんのこと、教育に対するスタンス、プレゼンテーションの質など学ぶべきことは多いと言っていました。
病院のメインの建物は1993年竣工と決して新しいわけではありませんが、正面玄関を入ると8階の高さまで吹き抜けがあり病院に明るい解放感を持たせています。また病院の中にもかかわらずフードコートやおもちゃ屋さん、映画館があり、院内の色使いはソフトで温かく、随所に入院患者さんやその保護者の方が楽しく過ごせるような工夫がされています。私はリサーチフェローで採用いただいているので、職場は病院内ではありませんが、週に数回臨床系のカンファレンス参加するために出入りするときは、仲良さそうにスタバに並ぶ親子、おもちゃをねだるこどもの姿を目にし、癒されています。学会や観光等でもしトロントに来る機会があったら、ぜひトロント小児病院も覗いてみてください。きっと何か感じるものがあると思います。
院内の吹き抜け部分です
明るくて可愛らしい雰囲気です
臨床研究
私が現在所属しているのは、SickKidsの研究部門で、小児発達障害を対象とした脳画像研究のグループです。スタッフ(常勤)、ポスドク、エンジニア、テクニシャン、院生を合わせると約20名を抱え、常時10個前後のプロジェクトが稼働し、毎年20扁以上の業績が世に出されるような慌ただしい職場です。働くメンバーはやはり国際色に富んでいて、私が一緒に働いた10か月の間だけでも、出身地はカナダ、イギリス、ポルトガル、スペイン、中国、香港、韓国、エジプトと多彩です。コミュニケーションは、天気の話、カンファレンス、Happy Birthdayを歌うときも(メンバーの誕生日は就業時間中にみんなで祝います)どんなときでも当然英語で、特にカンファレンスの時や学生のお世話係の担当になったときは非常に苦労をしました。日本にいる間にできる限りの準備をしてきたつもりでしたが、とくにリスニングが辛く、自分の努力の足りなさは棚に上げて、仲良くなった友人と日本の英語教育を呪うこともありました。
日本の臨床研究と最も事なると感じたのは、専門性の分業がきちんとしていることだと思います。私の研究はMRIを使用し脳内のネットワークを様々な方法で解析するものなのですが、MRIは機器も技師さんも臨床と研究が分かれています。院内に研究専用のMRI室があるわけです。しかも3テスラです。信じられないですよね。統計解析やコンピューターサイエンスを利用した解析では、専門にコンサルテーションを受けるエンジニアがいて、いつもお世話になっています。チームで仕事をするからこそ、日々の試行錯誤や進捗を確認する作業は重要視され、週に1度のグループカンファレンスとボスとのミーティングでは、内容に追いつけずポカンとすることもありますが、多くの気づきと反省があります。トロントに来てすぐのころは、言葉と学問の双璧に阻まれ、冬の凍てつく寒さと少ない日照量もあり、鬱うつとすることもありましたが、1年経過しようやく研究も軌道に乗ってきました。
ラボのメンバーです
中央後方の女性がボスのProf. Margot Taylor
留学を考えている皆さんへ
最後に、留学を将来の選択肢のひとつに考えている方に、少しでも参考になるようなアドバイスができればと考えてみました。まずはやはり英語力。せっかくの学ぶ機会も楽しみも、英語ができなれければ半減してしまいます。英語は言語、近道はありません。毎日15分でも30分でも絶やさず触れる機会を作ることが大切だと思います。次に経済力、ずばり貯蓄ですね。諸先輩方の話を伺うと、一昔前に比べて日本人が留学中の資金を得る手段は各段に増えたそうです。留学先から給与が出るのがベストでしょうが、それ以外にも日本の所属先からの給与や各財団の助成、様々な研究費などがあります。しかし留学中は物要りです。経済的に余裕があるに越したことはありません。最後に、可能であればお子さんも一緒に、家族で留学できるように計画してみてください。慣れない環境、ゆとりのある時間、自由な雰囲気(もちろん国にもよるでしょうが)、など様々な要素が家族の絆を強めてくれると思います。日本に戻ったときに、留学生活が自分だけものでなく、家族の思い出になっていたら、それこそ言うことはないと思います。