研究内容

神経内分泌肺腫瘍(カルチノイド、小細胞肺癌、大細胞神経内分泌癌)の細胞形質制御機構とがん幹細胞化との関連性

神経内分泌細胞には様々な特異的転写因子が発現しており、それらが複雑に神経内分泌細胞特異的分子の発現に関与しています。私達は、ASCL1、NeuroD1、c-Myc、L-Myc、N-Myc、POU-III、POU-IVの機能解析を通じ、神経内分泌肺腫瘍の細胞形質制御機構の全容解明に取り組んでいます。

小細胞癌と大細胞神経内分泌癌からなる神経内分泌肺癌の発生母地は未だ不明な部分が多いですが、近年の研究により肺胞上皮や気道上皮も発生母地になり得ることが明らかになってきています。また肺腺癌に対する分子標的治療の継続に伴い出現する薬剤耐性機構の一つとして腺癌から神経内分泌癌への形質転換が明らかになっています。私達は、腺癌がどのような機序で神経内分泌癌へと形質転換するのかについて研究を進め、RB1遺伝子不活性化とTP53遺伝子不活性化に加え、REST遺伝子不活性化とASCL1及びPOU3F4の発現が重要であることを突き止めました。

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神経内分泌腫瘍の病理診断に汎用されるマーカー分子の発現機構

神経内分泌腫瘍は神経内分泌機能を有する腫瘍の総称で、様々な臓器から発生します。形態的には神経内分泌顆粒を有し、細胞特異的な蛋白発現が見られることから、その病理診断にはchromogranin、synaptophysin、neural cell adhesion molecule 1 (NCAM1, CD56)といった神経内分泌マーカーの発現の確認が必要です。私達は神経内分泌腫瘍においてこの3種のマーカー分子すべてが常に高発現しているわけではなく、腫瘍細胞の分化段階により発現レベルが様々であることに気づきました。そこでそれら3種のマーカー分子の発現メカニズムを詳細に解析してみると、その発現機構はそれぞれ全く異なっていることが明らかになりました。この事実は、神経内分泌腫瘍の診断において、3種のマーカー分子すべての発現状態の確認が必要であることを、私達に知らしめています。

また、私達は神経内分泌顆粒の形成機序についても分子病理学的に検討を進め、REST遺伝子の不活性化と神経内分泌顆粒の内容物となるホルモン遺伝子の活性化が神経内分泌顆粒形成に必須の条件であること、PROX1遺伝子の活性化が神経内分泌顆粒形成を促進することを明らかにしました。

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肺癌における血管内皮細胞増殖因子の発現機構

血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor-A (VEGF-A))は腫瘍進展における血管新生、血管透過性、転移に深く関与しています。Hypoxia inducible factor (HIF)-1aはVEGF-Aの誘導因子として良く知られていますが、他のVEGF-A誘導メカニズムについては全く知られていませんでした。私達は、K-RASEGFR遺伝子の機能獲得性変異を有する肺腺癌細胞にVEGF-A発現が高いことを見いだし、解析を進めることにより、MEK-ERK pathwayの活性化に伴い発現されるEGR-1がVEGF-Aプロモーターに直接結合してVEGF-A遺伝子を活性化させ、またHIF-1依存性のVEGF-A発現をも増強させることを明らかにしました。その他私達は、VEGF-C、VEGF-Dの機能解析も行ってきています。

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肺癌の悪性化に伴うDNAメチル化現象

K-RAS遺伝子の機能獲得性変異はEGFR遺伝子変異と同様に肺腺癌発生における早期のイベントです。私達は肺腺癌のドライバー遺伝子であるK-RAS遺伝子の活性化が引き起こす遺伝子発現変化について、肺腺癌の発生母地である不死化末梢気道上皮細胞を用い、網羅的に解析しました。その結果は驚くべきもので、増殖亢進に作用する分子の有意な発現増加は見られず、むしろ増殖抑制に係わる分子の発現増加が顕著でした。私達は発現増加した分子のうち、IGFに結合することによりその機能を抑制する2種の蛋白(Insulin-like growth factor binding protein (IGFBP)-4, IGFBP-2)に注目し、解析を続けました。IGFBP-4/-2遺伝子のプロモーター解析により、IGFBP-4/-2の発現はRAS-MEK-ERK pathwayの活性化により発現誘導されるEGR-1により亢進することが明らかになりました。また、肺癌細胞においても変異型K-RAS遺伝子導入によりIGFBP-4/-2発現は誘導されるものの、その発現は極めて低レベルであり、その主因がIGFBP-4/-2プロモーターの過メチル化であることが判明しました。これらの事実は、肺腺癌発生初期にはK-RAS活性化に伴う過増殖を抑制する機構が機能しているものの、悪性化に伴うエピジェネティック変化によりそのフィードバック機構が破綻することを示唆しています。肺癌組織を用いた解析により、このIGFBP-4/-2遺伝子プロモーターの過メチル化現象は、肺腺癌だけではなく扁平上皮癌においても起こっていることが明らかになっています。

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小細胞肺癌における癌免疫回避機構

最も予後不良な腫瘍である小細胞肺癌は、癌免疫の形態的表現である癌組織内リンパ球浸潤を欠如するという特徴を持っています。免疫反応は免疫担当細胞が主要組織適合抗原(major histocompatibility complex: MHC)を介して免疫源を認識することにより起こる現象であることから、私達は小細胞肺癌における癌免疫回避の原因を癌細胞におけるMHCの発現不全に求め、解析を進めました。その結果、小細胞肺癌が有する未熟な神経/神経内分泌形質がclass II transactivator (CIITA, MHC発現に関与するマスター転写因子)の発現不全を引き起こしていることが明らかになりました。

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腫瘍の進展と分化異常、上皮間葉転換

腫瘍は遺伝子異常が起こった1個の細胞から発生します。初期の腫瘍では、発生した細胞の特徴(形態的および機能的特徴)が良く保持されています。しかし進行した悪性腫瘍(がん)になった段階では、細胞分裂のたびに付加される多数の遺伝子の異常により、発生細胞とは全く異なる性質を有した細胞に変化していることがあり、この現象が治療効果を低下させる主因になっています。私達は、肺や卵巣から発生する腫瘍の種類が他臓器から発生する腫瘍に比べ著しく多いことに着目し、肺癌や卵巣癌を対象に、腫瘍の進展と分化異常、上皮間葉転換の関連性についての研究を推進しています。

小細胞肺癌はRB1遺伝子とTP53遺伝子が非常に高率に不活性化されている特徴を有しています。私達は肺腺癌細胞を神経内分泌肺癌細胞に形質転換させる研究をおこなっていたところ、TP53遺伝子のノックアウトにより上皮間葉転換現象が惹起されることを見い出し、またRB1遺伝子をノックアウトすることにより神経細胞で発現の高い遺伝子の活性化が起こることを見い出しました。これらの事実は、RB1遺伝子とTP53遺伝子の異常は細胞増殖のみならず分化にも大きな影響を及ぼしていることを意味しています。

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甲状腺疾患の原因遺伝子の探索

先天性甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの合成能力が生まれつき低い遺伝性疾患であり、治療の遅れは成長障害や知的障害のリスクとなります。我々の研究により、SLC26A7遺伝子が先天性甲状腺機能低下症の原因遺伝子の一つであることが明らかになりました。得られた知見は、甲状腺機能低下症に対する治療へと応用されていくことでしょう。

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核内受容体およびタイト結合分子による小細胞癌の悪性形質制御機構

肺の神経内分泌腫瘍(主に小細胞肺癌)におけるliver X receptorなどの核内受容体や、claudinなどのタイト結合分子の発現及び機能解析を行っています。特にclaudinは様々ながんにおいて転移や増殖などの悪性形質に関与することが報告されていますが、肺神経内分泌腫瘍においては未だ不明です。そこで我々は、培養細胞系をメインに、CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトなどの技術を用いながら、これらの分子の発現状態や悪性形質への関与を明らかにすべく研究を行っています。本研究の成果は、肺神経内分泌腫瘍の新たな治療標的分子の同定に繋がるものと考えられます。

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脳神経核の発達についての研究

亡くなられた胎児の病理解剖例を用いて、脳神経核の発達過程を病理形態学的に研究しています。

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