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1 概要: 反回神経麻痺(=声帯麻痺or喉頭麻痺;本幹の損傷でも嗄声は生じるので)

2 詳細 反回神経麻痺 recurrent nerve paralysis =声帯麻痺vocal cord paralysis、喉頭麻痺*laryngeal paralysisともいう.

迷走神経の分枝として内喉頭筋を支配する反回神経の麻痺をさし,臨床的には主として声帯運動障害とそれに起因する諸症状を含む病態である.反回神経は迷走神経が頚部から胸部へ向かう途中でその本幹から分かれ,左側では大動脈弓,右側では鎖骨下動脈をめぐり,再び頚部を上行して喉頭に達する.この間,胸郭内,頚部において多くの器官と接し,走行も長いので損傷を受けやすく麻痺を生じやすい.なお迷走神経本幹の損傷でも類似の臨床症状を呈するため,喉頭の運動麻痺をすべて反回神経麻痺と称することには疑義があって,喉頭麻痺あるいは声帯麻痺というべきであるとの議論もあるが,慣習的にこれらをすべて含めて反回神経麻痺という呼称が広く用いられている.反回神経麻痺の頻度は全喉頭疾患中の十数%を占めると考えられる.原因としてはウイルス感染を主体とすると思われるいわゆる特発性麻痺が多く,ついで各種の悪性腫瘍による侵襲,外科的損傷などがあげられる.症状としては,声門閉鎖不全による嗄声と誤嚥が主であり,まれに両側性の場合には呼吸困難を呈することもある.診断は,臨床的には喉頭鏡検査にて声帯運動障害を確認することによって下されることが多い.しかし,関節障害などによる運動障害との鑑別には筋電図検査が必要である.なお反回神経麻痺とは,いわば症候名であるので,麻痺の原因疾患の究明がきわめて重要である.治療に関しては,麻痺の回復を促進する的確な方法はむしろ乏しいのが現況である.しかし音声障害や誤嚥について考えると,一側性麻痺であれば健側声帯の代償性過内転によって声門閉鎖不全の程度が改善し,症状の軽減をみる例が少なくない.したがって,発声練習によって代償運動を促進することは治療方針として有意義なものである.声門閉鎖不全が著しく症状が遷延する場合には声帯正中位固定術*の適応となる.また両側性麻痺で呼吸困難が著明な例では声門開大手術*を考慮する.(From Promedica)