1. 人体体部・部位
- 人体体部を学ぶ理由は?
骨学や筋学の基礎だから。 たとえば、体部を確実に把握していると、骨名・筋名が覚えやすい。
- 骨盤とは?
体部としての骨盤(=骨盤部)は、体幹の下部。 骨格としての骨盤(=骨性骨盤 bony pelvis)は、左右の寛骨(=下肢帯)および仙骨・尾骨(脊柱下端)から構成される筒状の骨格
。骨性骨盤は脊柱の一部と下肢骨格の一部から構成され、骨盤固有の骨はない。
- 上肢帯とは?
上肢の近位部で体幹と連結する。胸の上外側領域に密着し、肩に相当する部分。骨学では、鎖骨と肩甲骨を合わせて上肢帯と呼ぶ。
- 下肢帯とは?
下肢の近位部で体幹の一部をなす。骨盤の側方の領域を占め、股に相当する部分。骨学では、寛骨が下肢帯である。体表面の下肢帯の部位は、下肢の付け根として骨盤の側方を占め、この領域の前方は鼠径部、後方は殿部と呼ばれる。
- 部位と体部のちがい?
体部は、全身を切り分けた塊を指す。 部位は、人体の特定の(体表面の)領域のこと。切り分けられなくともよい。
2. 方向・平面・位置関係
- 解剖学的正位とは?
解剖学的な基本姿勢のこと。この基本姿勢に対して、方向や面が定義され、位置関係や運動の記述が行われる。
- 外側と内側は、何故「ソトガワ」と「ウチガワ」でないのか?
medial と lateral を和訳したものが内側と外側である。 lateral は側方や横を意味する。これらは、前頭方向(=左右方向、≒横方向)の位置関係を記述する用語である。より一般的な用語である right と left でも表現可能であるが、 対性の構造で(また不対性の構造でも左右対称であるならば) medial/lateral を用いると、左右のいずれの構造かを特定せずに 一般化した記述(左右いずれにも当て嵌められる)が可能となる。
- 例1 鎖骨下動脈は外側で腋窩動脈に移行する。因みに、解剖用語では、左右で構造や形態が同じ場合には、左右を特定する必要はない。
- 例2 肺の上方は肺尖、下面は横隔面という。この他に肋骨面と縦隔面がある。
- 例3 縦隔面は内側面であり、肋骨面は前面・外側面・後面からなる。
- 「ソトガワ」と「ウチガワ」に相当する用語は何か?
外・内 または 外方・内方 である。外部または内部といってもよい。英語では external/internal, exterior/interior, outer/inner あるいは outside/inside などが対応する。 外側と内側が左右方向(前頭方向)のみを想定しているのに対して、 外方・内方は、中心部を起点にして360°の方向を想定している。即ち、無方向である。
- 例1 肺の外面は胸膜に覆われ、肺尖・横隔面・肋骨面・縦隔面からなる。
- 例2 肺の内側面は縦隔面と呼ばれ、縦隔と連絡する気管支や血管・神経が通るための肺門があり、その部分は胸膜に覆われていない。
- 例3 主気管支の大部分は肺の外にあって、肺門の内側に位置する。
- 例4 葉気管支は肺の内にあって、肺門の外側に位置する。
- A は B の「ウチガワ」にある、と言った場合、いかなる問題が発生するか?
- 英訳する場合、
(1) 日常用語のウチガワの意味で言った場合、無方向なので、A is internal or interior to B.
(2) 解剖用語の内側をウチガワと発音していた場合、左右方向なので、A is medial to B.
以上のことから、ウチガワは同音異義で混乱をきたす。無方向か左右方向かの判断を迫られ、もし判断不能の状況では、internal と medial の訳し分けができない。よってその曖昧さを排除するために、内側は必ず、「ナイソク」と呼ぶべきであり、日常用語のウチガワは、内側の代わりに内・内方・内部・深側・深部・下層などの表現を状況に応じて使い分けるべきである。そして、ウチガワを使用禁止にすることにより、内側(ナイソク)=medialの一意性が保証される。
- 試験で筋名を英語で解答するとき、
内側翼突筋を internal pterygoid と訳すのは誤りで、medial pterygoid が正解である。
外側翼突筋を external pterygoid と訳すのは誤りで、lateral pterygoid が正解である。
- 一方、
内腹斜筋および内閉鎖筋は、internal oblique, internal obturator が正解である。
外腹斜筋および外閉鎖筋は、external oblique, external obturator が正解である。
内肋間筋・外肋間筋、内肛門括約筋・外肛門括約筋なども同様である。
- 神経や血管では
外側大腿皮神経 lateral femoral cutaneous nerve はあるが、内側大腿皮神経は存在しない。
外側臍ひだ lateral umbilical fold には、内側 medial と正中 median がある。
※内側と外側は正中との関係が深いが、内・外と正中は無関係である。内・外と関係のあるは中心である。
- 内・外は、
内頚動脈・外頚動脈、内腸骨動脈・外腸骨動脈、内陰部動脈・外陰部動脈などがある。
- 近位と遠位の用法は?
運動器では、四肢に対して用い、体幹との相対距離を表現する。 解剖学的正位を前提としていない。ただし解剖学的正位では、一般に近位は上で遠位は下になるが、足の場合だけ近位は後、遠位は前になる。
3. 関節運動
- 屈曲と伸展の方向はなぜ上下肢で異なる?
両生類、爬虫類、哺乳類への進化の過程で、側方に張り出していた四肢が、 前肢は外旋し、後肢は内旋した。ヒトは、二足で立ち上がった哺乳類であり、
肩関節と股関節では同方向であるが、それより遠位の関節では、屈曲・伸展の向きは 逆になっている。
- 肩の屈曲とは?
解剖学的正位は伸展位にあるから、肩関節を左右軸まわりに回したとき 回転が容易なのは、前方への回転である。したがって上肢を前方に向かって回すような運動を屈曲という。
- 指の内転・外転とは?
指を開く向きの運動が外転、解剖学的正位に戻す運動が内転である。
- 解剖学的正位に依らない回旋がある?
前腕では、回外・回内。足では、外反・内反。
- 解剖学的正位と運動記述の関係は?
解剖学的正位の関節は伸展位かつ内転位にあり、 上肢では外旋位、下肢では内旋位をとる。
- 足の屈曲・伸展とは?
解剖学的正位は伸展位にあるから、足関節を左右軸まわりに回したとき 回転が容易なのは、下方への回転である。したがって足を下方に向かって回すような運動を屈曲という。
足の屈曲は底屈と同義である。これを戻す運動が伸展であり、背屈ともいう。
●基本用語のまとめ(解説)