(ニュース・トピックス)留学生日誌

第5回 平成28年1月19日(火)

1年の留学生活が間もなく終了となり、今回の第5回留学生日記が最終回を迎えることになりました。御読み頂き有難うございました。また、留学生日記に貴重な体験記を書いて下さいました各先生、そしてこの1年、女性医師支援センター長として私の代行をして下さり、沢山の御支援をして下さいました放射線科教授の野崎先生に心より深く御礼を申し上げます。
最終回は獨協医科大学の卒業生です。新しい心臓カテーテル治療を学ぶため、留学されています。専門分野の選択を中心に女性医師の立場から書いて下さいました。

仙台厚生病院 心臓血管センター 循環器内科
水谷 有克子

私は2009年に獨協医科大学を卒業生し、都内の病院でレジデントを終え、2014年7月よりアメリカ・ロサンゼルスにあるCedars-Sinai Medical Center (CSMC)にリサーチ・フェローとして単身留学をしています。

私の所属するラボは、循環器分野の中でも先天性心疾患や弁膜症などの構造的心疾患に対するカテーテル治療を専門に行っています。現在、循環器分野でのカテーテル治療は、冠動脈疾患だけではなく、構造的心疾患に対する治療も広く行われており、CSMCのカテラボには、このようなカテーテルの技術を習得するために国籍・年齢・経歴等様々な多くの人たちが集まっています。このような広いフィールドに立っていますと、性別の違いは一つの違いでしかないと改めて気付かされます。
女性医師がカテーテル治療を専門にするにあたり、結婚・妊娠・出産は一つの分岐点です。放射線被曝の問題で手技から離れる期間も必然的に要されますし、緊急・予定外の治療も多く、定時で働くことが難しいこともあります。そのような状況でも、女性医師がカテーテル分野でのキャリアを継続できるような環境作り・サポートは必須であると思います。
しかしながら、留学を通して様々な人たちと出会うと、どのような環境であっても、環境を打開し、自らのチャンスを得ようとする努力、チャンスが得られたときにそれをものにする能力、そしてそれを継続していく強い意思がキャリアアップにつながり、そこに性別の違いは関係ないと改めて感じます。
私は留学を通して、日本では未導入のカテーテル治療を学ぶだけではなく、自分の置かれた環境や能力を再認識することができました。留学前は忙しさのあまり業務をこなすだけで1日が過ぎ去ってしまうことも多くありましたが、今後は忙しい中でも、自分自身を見つめ直し、ステップアップのための努力をしていきたいと思っています。この手記を読まれている方々も、日々お忙しくされていることと思いますが、御自身の目標や信念を大切され、益々御活躍されますことをお祈りしております。

Boss (Saibal Kar)とカテ室にて

Boss (Saibal Kar)とカテ室にて

第4回 平成27年11月20日(金)

第4回は病理医として留学されている先生の留学体験記をお送りいたします。
人との出会いの大切さ、今できる目標に向かって一歩ずつ前進することが夢の実現につながることをお話し下さいました。どうぞ、お読み下さい。

関西医科大学附属枚方病院病理診断科
大江 知里

私は2015年2月よりロサンゼルスのシーダーズサイナイメディカルセンターの病理部に留学しています。アメリカ留学は私にとって夢のようなことでした。20歳の時に初めての海外旅行としてロサンゼルスを訪れ、その際に足を延ばして訪れたグランドキャニオンの壮大な景観は深く心に刻み込まれました。それから月日が流れ、再度家族と一緒にこの地で生活できることになった偶然に驚いています。

私は大学卒業後間もなく、結婚・妊娠・出産という人生の大イベントが一気に押し寄せ、卒後10年間は子育てと医師としてのキャリアを積んでいくことに精一杯の毎日でした。そのような中でも、いつか海外で医療を学んでみたいという夢は一時も忘れていなかったように思います。渡米後、ほぼ同時期に留学を開始された小林さゆき先生との出会いがあり、同じような夢を抱いてきた道のりに共感し、この度留学体験記を書かせていただく機会を頂きました。
留学前、私は病理医として日々患者さんの診療に関わり、その中でも特に腎腫瘍に興味を持ち解析を行ってきました。病理診断は患者さんの治療に直結する重要な位置付けにありますが、診断に難渋するケースに度々遭遇します。病理専門医を取得した後もそのような難しい症例を経験する度に、さらに高い専門性を身に付けたいと思っていました。そんな中、ヨーロッパで腎腫瘍に関する発表を行った際に現在のボスとの出会いがあり、海外留学への道が開かれました。留学先のボスは泌尿器腫瘍病理における先駆的な役割を果たしておられる方で、数々の論文や教科書、講演などを通して、常に世界に向けて新しい情報を発信されています。このような先生に直接ご指導頂きながら学べるという、素晴らしい機会が得られたことを大変幸運に思っています。現在は、世界中の様々な施設から送られてくる難解な症例の診断方法を学んだり、新しい知見に触れたりと、日々刺激に満ち溢れた非常に貴重な経験を積ませて頂いています。

アメリカ留学は私の病理医としてのキャリアだけでなく、家族にとっても貴重な経験となっています。私は臨床医である夫と、2人の娘とともに渡米しました。主人も希望していた研究室に入ることができましたし、当初、こちらでの生活に戸惑っていた娘たちも、今では沢山の友達を作り、毎日目を輝かせて楽しそうに現地の小学校へ通っています。私自身も当初はネイティブの会話に付いていけず落ち込むこともありましたが、主人のサポートや娘たちの前向きな態度、励ましに勇気づけられ、今では同僚との会話も楽しめるようになりました。生きた英語が毎日耳に入り、多様な文化や価値観に触れることができるのもアメリカならではの経験ですが、逆に日本を離れて母国の良さを改めて知る良い機会にもなっています。
休日には西海岸の様々な土地を訪れたりしていますが、それによって医学以外の分野に視野を広げられていることにも喜びを感じています。日本ではあまり十分にとることのできなかった家族とのかけがえのない時間を過ごすことができ、そこでリフレッシュしてまた仕事に向かえるという望ましい生活サイクルになっています。このように海外での生活や様々な出会いを通して、人生が豊かになっているのかもしれません。

これまでを振り返ってみると、多くの先輩医師との出会いが非常に良い刺激となっていました。家庭を持ちながらも専門領域を獲得し、留学などを経て国際的に幅広い視野で活躍されている先生は、私の憧れであり目標でした。私も子育てに追われ、長期的な医師としてのビジョンをなかなか考えられない時期もありました。しかし、憧れていた先生に近づけるよう、専門医や学位を取得したり国際学会で発表を行ったりと、その時の自分にできることを一歩一歩進めていったことが、夢であった海外留学の実現につながったと信じています。
これをお読み頂いている皆様それぞれに、大切な目標や夢があると思います。皆様の医師としての人生が素晴らしく花開きますように、この体験記が一助になれば幸いです。
最後になりましたが、常に色々な可能性にチャレンジする機会を与えてくださった恩師、海外留学に理解を示し支援してくださった先生方、家族に心から感謝致します。

シーダーズサイナイメディカルセンター

シーダーズサイナイメディカルセンター

ロサンゼルスは一年中ほとんどがこのように気持ちのよい青空です

ロサンゼルスは一年中ほとんどがこのように気持ちのよい青空です

第3回 平成27年11月6日(金)

第3回留学生日記をお送り致します。
今回はLeadership Dialogue : How to navigate toward your greatest potentialをテーマにしたスピーチの一部を御紹介します。

平成27年11月3日ロサンゼルスで開催された日米協会主催のWomen’s Leadership Countsに参加しました。4名のうち3名のスピーカーが女性でした。一人目はロサンゼルス インターコンチネンタルホテルの日本人オーナー、二人目が日本でも御活躍されている作詞家、演出家の奈良橋陽子さん、三人目は北米伊藤園の外国人シニア・バイス・プレジデントの方々でした。特に印象深かった内容の一部をお伝えしたいと思います。
「海外で責任者として困難に立ち向かわなければならないときがあります。言葉だけでなく、文化などすべてが異なるため、厳しい条件下で挑戦しなければなりません。しかし、正義は世界共通です。情熱と夢を持ち続けながら、決して諦めず、自ら実際の現場の声を良く聞くこと、一緒に働く仲間と十分コミュニケーションを取り、議論をかわすことが大切です。そして感謝の気持ちを伝えること。3つの言葉passion、dream、loveがキーワードです。」
自分の英語力不足のため、十分に皆様にお伝えできないのが残念です。が、海外で責任者として御活躍されている方のお話が少しでも御参考になればと思い、ここロサンゼルスから送らせていただきます。

Women’s Leadership Counts

第2回 平成27年7月24日(金)

第2回目は留学体験記をお送りいたします。
今回は二人の子育てをしながら、御主人と共に留学生活を送られた小児科の先生を御紹介させて頂きます。

広島大学大学院医歯薬保健学研究科小児科学
宇都宮 朱里

私は2014年7月からの約1年間、UCLA(University of California, Los Angeles)の小児科内分泌部門で研究留学をさせていただきました。今振り返ると、この留学で得た経験や人との出会いが私自身の非常に大切な財産となっていると感じています。今回はその体験について、簡単ですがご紹介させていただきます。
‘海外での研究留学’は私にとってぼんやりとした憧れでしたが、30代になって結婚、出産と2人の子どもの育児が始まり私自身、留学を実現することは遠のいたように感じていました。また、育児の時期と同じくして大学院生として働きながら、研究生活をスタートしましたが、予想以上に家庭や育児と仕事との両立は大変であり、毎日手探りで奮闘する日々でした。そんな中、留学のきっかけを与えてくれたのが夫の留学でした。当時二人目の子どもはまだ幼かったのですが、海外の施設で少しでも勉強する機会があるかもしれないというかすかな期待を胸に、アメリカ生活へむけての準備が始まりました。
まず留学先を探すため、自分の専門と共通するテーマの教室にメールを出し始めました。当初は英語で履歴書を書き、先方にメールするだけでも緊張のやりとりでした。自分のできる実験手技や専門分野を記し、夫も留学中であることなども説明し、数回のコンタクトを経てOKの返事をもらうことができました。
その後に分かったことでしたが、幸運なことにラボのBossやmanagerが育児を経験してきた女性であったということでした。私自身、アメリカで育児をしながらラボに通うことに不安な面もありましたが、Bossである彼女から「あなたが家庭に対しての責任をもっていることは分かっている。決まった時間の拘束はしないけど、ラボの実験には時間を要すると思うしその結果としてあなたの成果がでる、それが私たちのゴールよ」と言われた時に、私はこれまでに言われたことのない、率直で理解のある助言にとても感銘を受けました。それをきっかけに私自身、できるだけラボの仕事に貢献したいと思うようになりました。Bossはその後も色々な実験や発表の機会を私に与えてくれ、今でもそのリーダーシップや配慮のある助言に感謝するとともに、良き先輩として尊敬する存在の女性です。
一方家庭では、夫と交代で子どもと過ごす育児を続けました。夫の理解と協力なくしては何もできなかったので夫には本当に感謝しています。意外にも夫自身は子どもの成長を見ながら育児をしたことを喜んでおり、私たち家族にとって日本ではなかなかできない貴重な経験や思い出が沢山できたように感じています。子どもたちも慣れない環境の中でも、元気な笑顔をみせてくれ、また子どもを通じて知り合った出会いもあり感謝しています。
今回の留学の機会を通じて思うことは、自分が長く携わってきた専門分野があれば海外でもそれを活かした留学ができる、諦めずにいれば周囲のサポートを受けながらそれが実現できるということです。末筆ではございますが、今後ご留学をご希望されている女性医師の方や子育て中の女性医師の方々のキャリアップに向けての一助となれば幸いです。
そして最後になりましたが、今回このような貴重な機会を与えていただきました小林さゆき先生に心より感謝申し上げます。

研究施設

研究施設

ラボ内の風景

ラボ内の風景

第1回 平成27年6月24日(水)

当院女性医師支援センター長の小林さゆきです。今年3月からロサンゼルスのシーダーズサイナイ病院に留学させていただいています(私の留学期間中は放射線科野崎教授がセンター長を代行して下さっています)。皆様のキャリア支援に少しでもお役に立つような情報を「留学生日記」としてロサンゼルスからお送りしたいと思っていますので、どうぞ、お読みになってください。

では、第1回として、今回の留学の経緯をお話します。「どうして今になって留学するのですか?」と多くの方からよく質問されました。これまでの留学希望者は学位取得前後の 30歳台が多く、私が留学申請書類を提出した際には50歳台は異例だと言われました。しかし、私にとっては留学できるタイミングは今のこの時期しかありませんでした。医局をはじめ周囲への負担を考えて半ば諦めかけたこともありましたが、今この時期を逃すと二度と留学はできない、広い視野をもって知らないことを沢山学びたいという強い思いと家族からの暖かい理解によって決断することができました。女性はライフサイクルが一人一人で異なります。先輩医師からは「年齢は関係なく、勉強したい今の気持ちを大切にして是非留学した方が良い」とアドバイスを受けました。いくつになっても自分の思いを諦めることなく灯し続けていれば、時期は遅くとも必ず夢は実現できるのだと実感しています。どうぞ、皆様にも日々の忙しさで忘れかけた夢を思い起こし、実現させて頂きたいと思います。

現在留学している病院は約2000名の医師が働き、開業医もこの病院で患者を担当することができるため、幅広い年齢層となっています。病院の朝は早く、自分の研究分野である心エコー室は7時台には検査が始まります。朝のレクチャー、昼休みのカンファレンスが定期的に開催されますが、夜の集まりはなく、週休2日でオンとオフがはっきりしています。日本からの留学生も多く、若い女性医師、子育て奮闘中の女性医師など皆さん、研究に打ち込みながら留学生活を送っています。次回は、その中のお一人から留学生活の様子を皆様にお知らせしたいと考えております。どうぞ、お楽しみに。

留学中の病院

留学中の病院

病院近くで咲いている花

病院近くで咲いている花

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