骨が好きだなんていう人はよほどの物好きか変人である。しかし、世の中には骨が大好きでずっと骨を研究している一群の変わった人たちがいる。我々も、どちらかといえば好きな方である。もともと好きでたまらなかったわけではないが、見たり触ったりしているうちにだんだん情が湧いてきたということか。人のヅガイ骨をはじめて触ったときは、忘れていた死に対する感覚を思い出したような複雑な気持ちになった。快感などでは決してない。その逆の不安に似た感情である。ところがそんな気持ちは徐々に薄れていき、唯々形の複雑さや多様さに興味を惹かれるようになっていった。我々のデータベースはそんな骨好きや骨マニアのためのものである、と思ってもらっていい。恐いもの見たさで覗いて見ようと思う人は案外そんな素質があるのかも知れない。虫好きに比べて、骨好きは非常にマイナーであり世間でも認知されていない。ちょっと我慢して勉強すれば、だれでも専門家のような口を利くことが不可能ではないので、そういうことがしてみたい人にも役に立つ。一方、研究・教育などから離れて、何らかのデザインの素材に使って頂いても勿論かまわない。利用の仕方は自由である。ただし、骨が嫌だという人に無理に見てもらおうとは思っていないし、したがって、なるべく多くの方々に使ってもらい、そして楽しんでもらうことなど、全く念頭にない。もっと正直にいえば、実はもともと我々自身の楽しみ(=形態学の研究)のために作ったデータベースなのである。我々と興味を共有できる人にとっては、あまりにも有益な素材であり、様々な利用価値があることはすぐに見て取れるはずである。今後も、我々が使いやすいように大幅な変更を加える可能性があるし、大量に画像の追加があるかもしれない。もちろん、一般の皆様から寄せられる要望を全く無視しようなどとは考えていない。どのような意見・感想でもお寄せいただいて結構である。実現が容易なものについては、できる限り要望にお応えしていきたい。そのためには資金的な援助を惜しまないというのなら、喜んでお受けするつもりだが、決して相当の見返りがあるなどと期待してはいけない。哺乳動物の骨格を所蔵している博物館や好事家の方々がこのプロジェクトの存在に気づき関心を抱いて、所蔵骨格標本の撮影をご許可願えると、我々にとっては一番ありがたい。
さて、今回撮影した画像の素材は、獨協医科大学第一解剖学教室所蔵の約3000の脊椎動物骨格標本( http://1kai.dokkyomed.ac.jp/specimen/specimen.html )のうち、哺乳類頭蓋約1300個体分である。所蔵標本に含まれる哺乳類の標本数は実は1500個体を悠に超えているのだが、今回撮影に用いた頭蓋はこのうちなるべく完全な形をしているものを選んだ。ところで解剖学的に少し細かな話をすると、頭蓋[トウガイ]はヒトの場合、15種23個の頭蓋骨[トウガイコツ]からなるが、今回は撮影の技術的な都合でこのうち下顎骨と舌骨は含まれていない。下顎骨と舌骨を除いた頭蓋は一つの塊を成している。この骨の塊[解剖学では特別な名称がない]を前後、左右、上下の6方向から撮影した。前面・後面・左側面・右側面・上面の撮影は、原則として、耳眼平面[眼窩の下縁と外耳孔の上縁によって形成される平面]が水平になるように頭蓋を固定して行い、下面のみ上顎の歯列が形成する平面[骨口蓋の部分]を水平になるようにして撮影した。写真はプロ用のデジタルカメラで撮影しており、現時点(2000年2月)では最高品質の写真であると自負している。解像度だけに限れば、それは日進月歩なので近い将来、数値的に平凡な値になってしまうことは確実である。ただし、良い骨格写真を撮影するためには、CCDの集積度や画素数のほかに、デジタルカメラの色再現特性に基づくライティングの手法やレンズなどの光学系の精度、微妙な露光条件などの種々の要素が絡んでくるので、大量の撮影データを見ながら試行錯誤で経験的に各種条件を決めていかざるを得ない。全ての写真にはスケールを一緒に写し込み、また撮影は望遠レンズを用いてできるだけ遠距離から行った。被写体の画角を小さく抑えて、パースペクティブに起因する歪みを出来るだけ小さくするためである。上・下の方向の撮影には表面鏡と呼ばれる特殊な鏡を使用した。通常の鏡を用いない理由は、鏡の銀面の反射とガラスの表面反射による2重の写り込みが生じてしまうからである。1画像あたりのデータの容量は圧縮して6MB、展開して17MBである。現時点での総撮影枚数は11198枚に達し、全データはCD−Rメディアで126枚に保存してある。ただし、ホームページ上には、JPEGという圧縮方式で300KB程度にさらに圧縮した画像を載せてある。画質はやや落ちるが、これは撮影時の画像と同じ画素サイズ(600万)である。このほかにホームページ上で見やすいように解像度を落として大きさを調整した画像が数種用意してある。これらの画像のほかに、撮影を行った全ての標本は、最大長や最大幅などの4項目について、ノギスによる実測値を公開している。
今後の運用の詳細はまだ言えないが、まずは哺乳類骨格の種類を増やしていくことになるだろう。特に霊長類については力を入れていきたいと思っている。本データベースの画像の利用は、商用目的でない限り、特に制限は設けない。いずれにせよ積極的に利用したり、リンクを張ったりする際には、その旨ご連絡を頂けると利用状況が把握できるのでありがたい。こちらから最新の情報[バグフィックスなど]の提供も可能になると思う。最後に、撮影に協力をいただいた獨協医科大学および宇都宮大学の学生諸君、撮影準備などをお願いした獨協医科大学第一解剖学教室のスタッフの方々、技術的ならびに資金的な援助を頂いた今井弘民先生をはじめとする総合研究大学院大学・生物形態資料画像データベースプロジェクトの関係者の皆様、そして終始我々の研究にご理解をいただいている獨協医科大学第一解剖学教室芹澤雅夫教授に感謝する。(高橋)