発生
体の各部分の骨格筋、平滑筋、脂肪、結合織、骨、軟骨などの細胞になるもとの細胞を間葉系細胞といいます。横紋筋肉腫はこの間葉系細胞から発生し、一部、骨格筋(横紋筋)細胞の性質を示す腫瘍と考えられています。図は、間葉系細胞からの正常な横紋筋組織の発生(実線矢印)と横紋筋肉腫の発生(点線矢印)を示します。
特徴
永年にわたる米国のグループ研究により横紋筋肉腫の以下のような特徴が明らかになっています。このグループ研究はIRS (Intergroup Rhabdomyosarcoma Study)とよばれました。(1)発症年齢については、全体の2/3が10歳未満のこどもに発生します。(2)発生(原発)部位については、横紋筋肉腫は体のどの部位にも発生しますが、最も多いのは眼の周り(眼窩)や傍髄膜(脳の表面)などを含む頭頚部で約35%を占めます。続いて膀胱、前立腺、精巣周囲、膣、子宮などの泌尿生殖器、次いで四肢に発生します。図は、発症年齢の分布(図上)と発生部位の分布(図下)を示します。
(3)進行度には発生部位、腫瘍の大きさ、周囲への拡がりなどで分類するステージ分類と手術の結果を考慮したクリニカルグループ分類があります。図は、クリニカルグループ分類(CG)と頻度の関係を示します。CG Iは手術で完全に取りきれたもの(20%)、CG IIは手術で肉眼的には全摘したが顕微鏡レベルで腫瘍が残っているもの(19%)、CG IIIは摘出不可または肉眼的に腫瘍の一部が残っているもの(47%)、CG IVは遠隔転移があるもの(14%)です。
(4)組織型は、顕微鏡で見た特徴で分類されますが、主な組織型は胎児型と胞巣型です。全体の半数以上が胎児型で20%前後が胞巣型と分類されます。図は横紋筋肉腫の組織型の分布と、実際の胎児型横紋筋肉腫の組織(顕微鏡)像を示します。
診断
診断は、腫瘍の一部(生検)または全部を切除し、病理組織学的検査により行われます。横紋筋肉腫の転移は肺に多く、次いで骨髄、骨、リンパ節などに見られます。
治療
手術、放射線療法、抗がん剤を用いた化学療法を組み合わせて治療を行います。手術の目的は診断に必要な腫瘍組織を採取すること、および腫瘍を切除して腫瘍の量を減らすことです。 手術により正常な臓器の機能や形態を犠牲にすることは最小限に止めなくてはなりません。したがって、腫瘍の切除が容易でないと判断される場合には、化学療法や放射線療法で腫瘍を小さくしてから手術を行います。横紋筋肉腫に対し造血幹細胞移植(骨髄移植や末梢血幹細胞移植など)を用いた治療が国内外で行われていますが、治療効果や有効性については、いまだ不明です。
治療成績
治療後の生存率や治癒率を予後、また予後に関連する因子を予後因子とよびます。横紋筋肉腫の予後と関連する代表的な因子(予後因子)は年齢、発生(原発)部位、進行度、組織型です。例えば、眼窩、眼瞼、この他傍髄膜を除く頭頚部、膀胱・前立腺以外の泌尿生殖器(傍精巣・陰唇交連・膣・子宮など)に発生した横紋筋肉腫は予後が良好であることが知られています。一方、四肢、会陰・肛門周囲、膀胱、前立腺、傍髄膜、体幹、後腹膜などに発生した横紋筋肉腫は治療に抵抗性で予後は不良です。腫瘍の組織型も治療結果に大きく影響を与えます。転移をともなわない場合、胎児型であれば6年後の生存率が60%であるのに対し、胞巣型では25%にすぎないというデータがあります。