そけいヘルニア(鼠径ヘルニア)
小児外科で扱うことの最も多い疾患です。 腹膜の袋(腹膜鞘状突起、ふくまくしょうじょうとっき)に腸管や卵巣が脱出し、そけい部がふくらみます。図では右側の腹膜鞘状突起が残っているためにそけいヘルニアの原因となっています。
嵌頓(かんとん)
脱出した腸管や卵巣が戻らなくなる嵌頓(かんとん)をおこすことがあるので、そけいヘルニアと診断されたら手術が必要です。図のように脱出した腸管がむくんでもどらなくなり、放置すると腸管が壊死をおこします。
男児そけいヘルニアの嵌頓
そけい部から陰のうが腫れ、陰のうは赤みを帯びています。
女児そけいヘルニアの嵌頓
卵巣が出てもどらなくなることもあります。
手術は、生後3カ月以降に行います
もちろん、嵌頓の危険を考慮して生後3ヵ月より前に行うこともあります。手術では、腹膜鞘状突起の根もとを二重にしばり、腸管や卵巣が出ないようにします。当施設では腹腔鏡を用いない小さな創の手術(SSEM法)を行っています。
再発
手術後の再発は300人~500人に1人の割合でみられます。再発の場合には再手術が必要となりますが、他のヘルニアが出ている場合もあり、手術時には腹腔鏡検査を併用するのが一般的です。
そけいヘルニアの対側発症と対側検索
そけいヘルニアの手術後に、しばらくして反対側のそけいヘルニアがでることを対側発症といいます。 多くは1年以内におこりますが、10年以上経った後にでることもあります。対側発症の頻度は5%から10%で、片側の手術をうけたこどもの10人に1人、または20人に1人が反対側の手術をもう一度、受けなければならないことになります。対側発症により二度の麻酔、手術を受けなければならないことを避けるため、手術の際に反対側も調べ、腹膜鞘状突起が閉じていなければ反対側も同時に手術をしてしまうという方法があります。これを対側検索といいます。
対側検索の問題点:
1)腹膜鞘状突起が閉じていなくても必ずしもそけいヘルニアがでるとはかぎりません。対側検索を行なうと50%から60%位の頻度で腹膜鞘状突起が閉じずに残っていると確認されます。しかし、そのうち実際にそけいヘルニアの症状がでるのは1/5から1/10程度です。
2)左側のそけいヘルニアと親や兄弟にそけいヘルニアがあった場合には対側発症を起こしやすいことがわかっています。しかし、それでも対側発症の可能性はせいぜい10%から15%程度です。また、腹膜鞘状突起をじかに観察しても将来、そけいヘルニアがでるかどうかの予測は困難です。したがって、対側発症の可能性の高いこどもだけに対側検索や対側の処置を行うというのもなかなか困難です。
当施設ではそけいヘルニアの対側検索は心臓や肺などの疾患があったり、神経系などの重篤な障害のため二度の麻酔や手術を避けたいと考えられる場合には有効な方法と考えています。
水瘤(精索水瘤、精巣水瘤)
腹膜の袋(腹膜鞘状突起)のなかにお腹から降りてきた水がたまった状態で、以前は陰のう水腫と呼ばれました。ヘルニアと同じ腹膜の袋が原因ですが、水瘤の場合には嵌頓のような危険はないので急いで手術をする必要はありません。1歳までに9割が自然に消失しますので、1歳をすぎても残っている場合に手術の対象となります。そけいヘルニアと水瘤の区別が難しいことがあるので、治療方針の決定には 小児外科医による診察が必要です。