胃食道逆流症

病態

胃の内容物が食道へ逆流することを胃食道逆流現象(GER)といい、病的な胃食道逆流現象に症状をともなった場合を胃食道逆流症(GERD)といいます。図は、正常な食道、胃、横隔膜の関係を示します。食道が横隔膜を通る部分を食道裂孔とよびます。

正常な状態では逆流防止機構がはたらいて胃から食道への逆流は起こらない仕組みになっています。逆流防止機構には、1)食道裂孔(食道が横隔膜をとおる部分)の圧迫、2)腹部食道(横隔膜より下の食道)にかかる腹圧、3)食道と胃の角度(ヒス角)、4)食道胃接合部の胃粘膜ヒダの集合、5)下部食道昇圧帯(LES圧)、6)腹圧などが関与すると考えられています。図は、逆流防止機構のはたらきを示します。

逆流防止機構が未熟であったり、正常にはたらかないと胃食道逆流がおこります。生後2カ月ころまでは逆流防止機構が未熟なため生理的な胃食道逆流がみられます。一方、食道裂孔ヘルニアなどの疾患があると、病的な胃食道逆流を生じます。長期療養中の重症心身障害児にも胃食道逆流がみられます。食道閉鎖症や先天性横隔膜ヘルニアの手術後など胃食道逆流を認めることがあります。図は、正常な逆流防止機構がはたらかない状態(図上)、滑脱型の食道裂孔ヘルニア(図中)と胃食道逆流(図下、黒矢印)を示します。食道裂孔ヘルニアでは胃の一部が横隔膜の上にとび出している様子を示します(黄矢印)。

症状・診断

胃食道逆流症では、嘔吐、吐血、逆流性食道炎などの消化器症状と、肺炎、ゼイゼイ(喘鳴)、セキ(咳嗽)などの呼吸器症状がみられます。栄養状態が悪くなると、体重増加不良、貧血、低蛋白血症などを認めるようになります。胃食道逆流は乳幼児に突然おこるチアノーゼ、無呼吸発作などの呼吸障害の原因のひとつとも考えられています。胃食道逆流症の診断には、食道・胃造影検査、24時間食道pHモニタリング、(ミルク)シンチグラム、食道内視鏡などを行います。24時間食道pHモニタリングではpH4未満の時間率が4%以上の場合、異常な胃食道逆流と診断されます。図は、24時間食道pHモニタリングの結果を示します。胃液が食道内へ逆流すると胃内のpHが4以下に下がります。

治療

治療は内科的(保存的)治療と外科的治療(手術)に分けられます。内科的治療では、1)体位(姿勢)療法(60度以上の上体挙上、あるいは哺乳後少なくとも30分は抱っこなどで体をおこしておく)、2)薬物療法(消化管運動促進薬、制酸剤など)、3)少量頻回の哺乳(ミルクの1回量を減らし、投与回数を増やす)、4)濃厚乳の投与などが行われます。手術は内科的治療が無効な場合に選択されます。図は、噴門形成による逆流防止手術を示します。腹部食道の回りを胃底部でまいて逆流を防止します。

重症心身障害児の胃食道逆流症

重症心身障害児では高率に胃食道逆流を認めることが知られています。原因は、重症心身障害児に特有の筋肉の緊張や脊椎の変形(側彎)、腹圧の上昇、慢性的な呼吸障害、食道裂孔ヘルニアの合併などです。特に肺炎やチアノーゼなどの呼吸障害と胃食道逆流は密接に関連しており、呼吸障害は胃食道逆流の原因になり、また胃食道逆流は呼吸状態を悪化させます。このような重症心身障害児の胃食道逆流症に対しても逆流防止術が有効で、患児の呼吸状態や患児、介護者の”生活の質”が改善することが経験されています。逆流防止術を施行する際には、栄養路としての胃瘻造設や、唾液誤嚥に対する気道手術(気管切開、喉頭気管分離術)などの適応が併せて検討されます。図は、腹腔鏡を用いた逆流防止手術の実際を示します。

注意)一般に、重症心身障害児では手術後の再発率が12-45%と報告されています。また、再発後に再手術を行っても1/4に再々発がみられるとも報告されています。