先天性横隔膜ヘルニア

分類

横隔膜の部分的な欠損や弱い部分を通してお腹の臓器が胸に飛び出した状態を横隔膜ヘルニアといいます。横隔膜のヘルニアには、1)胸腹裂孔ヘルニアまたはボホダレック(Bochdalek)孔ヘルニア、2)胸骨後ヘルニアまたはモルガニ(Morgani)孔ヘルニア、3)食道裂孔ヘルニアなどがあります。胸腹裂孔ヘルニア(ボホダレック孔ヘルニア)では、横隔膜の欠損孔を通して小腸、大腸、胃、脾、肝などが胸(胸腔内)に脱出し肺を圧迫するため呼吸障害をおこしたり、嘔吐などの消化器症状がみられます。図は左胸に腸管が脱出した先天性横隔膜へルニア(胸腹裂孔ヘルニア)のレントゲン写真です。

 

治療

胸腹裂孔ヘルニアは母体に羊水過多をともない、出生前に胎児超音波検査で診断される場合があります。出生前に診断される例や、出生直後に発症する例は肺の発育不全(低形成)や肺血管(肺動脈)の高血圧(肺高血圧症)をともない重症例であることが多く、このような場合には周産期あるいは新生児期の集中治療が必要となります。治療は、重症度に応じて人工呼吸、高頻度換気(HFO)、サーファクタント療法、一酸化窒素(NO)投与などが選択され、状態が安定すれば横隔膜の欠損孔を閉じる手術が行われます。

胎児治療の試み

肺の発育の極めて不良な出生前診断症例を対象に、胎児期に治療を行い肺の発育を促そうとする試み(臨床試験)が米国で行なわれました。しかし残念ながらこのような胎児治療を行っても治療成績を改善することができないことが明らかになり(N Engl J Med 349:1916-1924, 2003)、現在では先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児治療は行われていません。